Music Review : 2004年01月

SEX MACHINEGUN / THE MAINTENANCE 【88点】

個人的2003年のNo.1チューンに選出したばかりか、間違いなく人生のベスト10には食い込んでくる哀メロ爆発悶絶必至の超名曲「語れ!涙!」収録のSEX MACHINEGUN名義でのANCHANGファーストソロアルバム。この曲はもともとバンド用に書かれたものなので、本アルバムの方向性を見ると異色な存在である。故にラストにもってきた曲順には納得。アルバムはモダンでヘヴィな「笑ってんじゃねぇ」を筆頭に、マシンガンズの4th「IGNITION」路線に近い感じ。練りに練られたメロディと歌詞、アレンジにはANCHANGの強いこだわりが感じられる。特に熱くてお馬鹿なヘヴィチューン#2「爆乳ダイナマイト」、お得意の言葉遊びにアコースティックギターを絡めた小気味よいテンポから一気にノリノリコーラスに突入する#3「高年齢化社会」、真面目な歌詞と哀愁漂うクサい曲#4「WIND」、力強く愚痴る歌詞が笑える#5「チャーシューメン」あたりの流れは圧巻。その後もマシンガンズ時代を彷彿させるスピーディーな#7「豆板醤」、#9「大逆転」や、力み系バラード#8「FLAYAWAY」などバラエティに富む。終盤に若干弱さを感じるが、ANCHANGにしかできない独特の世界が堪能できる。聴きこんだ後にもう一度ライブを体感したい。(H)

NEGATIVE / WAR OF LOVE 【84点/85点】

専門誌で異例の厚待遇を受け日本デビューを果たしたフィンランド出身のホープ。フロントマンのヨンネ・アーロンの発する先天的なスター性はメディアをも動かしたということか。そんなわけで受け手側としては普通の新人バンドより大きな期待と厳しい耳で接すること必至なのだが、意外にも見た目や年齢のわりに声もサウンドも落ち着きがあり、地に足がついた印象。TO/DIE/FORやSENTENCEDといった同郷バンドの名前を想起させるメロディはたっぷり憂いとフックが込められている。ヨンネの声も顔に似合わず男っぽく「男の色気」がウリなフィンランド産ならでは。前述バンドに比べ毒気が薄い分大衆性はあるかもしれない。本国チャートを席巻したという#5「The Moment of Our Love」などは妖しげなフェロモンを匂わせる佳曲だ。若さゆえの不安定な部分もあるが、メロディメーカーとしての非凡なセンス+彼らならではの武器、則ち妖艶な空気感を決して殺さぬように邁進すればもっともっと多くのファンに支持されるバンドに成長するはず。数年後、ヤツらはデビュー当時からすごかった、なんて話ができれば嬉しいと思う。(H)

フィンランド出身の平均年齢20歳の新人バンドのデビュー作。出身地が出身地なだけにメランコリックなメロディを期待していたが、思いのほかにポップ。しかしヨンネ・アーロンの艶っぽく憂いのある声と歪んだギターの音色には叙情性が織り込まれている。ジャケットといい音楽性といい80年代のアメリカン・ハードロックを髣髴とさせる楽曲には懐かしさを感じさせる。久しぶりにわかりやすいロックに心も躍るというもの。ただ、アルバム全体に統一感に欠けるところがあり、どことなくだれる感じも受けなくはない。だがまだまだ原石の状態なので、今後は影響とオリジナリティーの融合が成長への大きな課題。ここに期待したいところ。#5「The Moment of Our Love」、#9「Goodbye」がなかでも輝いている(アコースティックバージョンも捨てがたい)。(K)

PINK CREAM 69 / THUNDERDOME 【88点】

既にベテランバンドとしての風格を漂わせているドイツ産HR/HMバンドPINK CREAM 69の10作目。「ELECTRIFIED」以降一点の迷いもなく突き進む姿勢は本作においても全く不変。メロディの使い回しによる飽きが全くないといえばウソになるが、やはり“天才シンガー”デヴィッド・リードマンが伸びやかに歌うPC69節全開のHRチューン#3「Gods Come Together」、#7「Shelter」、#11「Another Long Make Last」といった定番曲にはいつもと変わらぬ感動と刺激を与えてくれ、ファンが求めるレベルはしっかりキープ。#12「See Your Face」のようなこれまでなかったライトな曲もいいアクセントだ。ここ数作は単発ではもの凄くいい曲はあれどアルバム全体ではいま一歩…といった印象が強かった。粒の揃ったバランスの良さは高く評価したいところ。(H)

LORDI / GET HEAVY 【90点/91点】

え!?アニメの実写版!?てな感じの特殊メイクのコスチュームをまとった、強烈な個性をぶちかますフィンランド産メロディックロックバンドのデビュー作。ブックレットやオフィシャルサイトを見ても、そのビジュアル的なこだわり様はハンパなものではなく、相当の気概を感じる。そして、その見た目のインパクトに負けない素晴らしいメロディが受け手に二重の衝撃を与えてくれるのだ。フィンランド系バンド独特の哀愁漂うノリノリメロディにアリス・クーパーの毒気もブレンドされたキャッチーなメインストリーム型HR/HM。#5「Would You Love A Monsterman」なんか聴いているとMTVを観まくっていたころを思い出したりなんかして、頭の中で勝手にLORDIのメンバーをブラウン管の中で映像化してしまう。彼らのコスチュームも、歌詞も楽曲も、首尾一貫したコンセプトが感じられる一級品のエンターテイメントなのだと思う。まさしく「モンスター級」と呼べるアルバムだ。映像か生で是非観てみたい。それにしても個性豊かなバンドが湯水のようにあふれ出すフィンランドという国は本当に熱い…。(H)

フィンランド出身の異端児極まりないバンド、LORDIのデビューアルバム。ジャケット、その容姿には失笑しかねないほどの衝撃的なものであるが、彼らが作り出す楽曲は思わず鼻歌でメロディーをなぞってしまうほどキャッチー。煽情力溢れるギターのリフ、そして美しい旋律を奏でるキーボード、ここまで見た目を裏切るバンドは今までにあっただろうか。多少毒気のあるVoではあるが、哀愁と爽快感がものの見事に同居し、超絶コスプレ集団(これが本来の姿?)ではなく、20代前半のナイスガイが演奏しているのでは、とさえ錯覚してしまう。数々の佳曲の中で特出している、#5「Would You Love A Monsterman」、#10「Last Kiss Goodbye」両曲の至高の旋律は、ライブで盛り上がること間違いなし。(K)

BoA / LOVE AND HONESTY 【81点】

いまや日韓両国文化の架け橋的存在になっているBoAのニューアルバム。両国通じてかなりのアルバムを出していたので、日本ではまだ3作目というのがちょっと意外な感じ。何でもこなせる堂々とした歌唱は相変わらずで、ダンサブルな曲からバラード、ちょっと気怠い感じの曲まで見事に歌いこなしている…というのはデビュー当時から感じていたわけで、正直最近はちょっとマンネリというか、あんまり真剣に聴けなくなってきている自分に気づく。これはBoAを取り巻く音楽ビジネスの功罪なのかも。たくさんリリースするのもよいけどマンネリを感じさせる楽曲のフツーさが気になるところで、BoAの歌唱力に頼っているだけっぽい。「Rock With You」とか「Double」はリスナーが求める予定調和のタイプの曲なので歓迎だけど、その他大半の楽曲はいい曲はあれどいまひとつ感は拭えずじまい。アイドル化しなきゃいいけど、このジャケじゃなぁ…。(H)

WUTHERING HEIGHTS / FAR FROM MADDING CROWD 【82点】

デンマーク人ギタリストを中心に構成されたプログレッシブ・メタルバンドの3作目。アイリッシュ・トラッドを大胆に取り入れたプログレメタルというのは非常に興味深い組み合わせだ。パワーメタル調に疾走していると思いきや突如複雑な場面展開を見せたりと、やや意外すぎるところもあったりして少々とっつきづらさはあったものの、抑揚のあるメロディにのってくると徐々に慣れてきた。ヴォーカルのニルス・パトリック・ヨハンソンはトニー・マーティンやロニー・ジェイムス・ディオばりの暑苦しく重厚な声を披露しているが、実はクリーン・ヴォイスも巧みに使い分けるテクニシャン。その表現力には知性すら感じられ、この個性的なサウンドの中で存在感を大きく主張している。個人的には、アイリッシュトラッドの情感とパワーメタルのクサさの加減がいまひとつピントが合わずにしっくりこなかった感じ。(H)