ARCH ENEMY in 長野CLUB JUNK BOX
怒号の如く鳴り響くソリッドでダイナミックな音の洪水と、観客を煽るアンジェラ。体は自然と縦に動く。拳は自然に天を突く。汗は滝のように流れる。そしてだんだん意識が朦朧とする。これがメタルのライブの神髄なのか。ライブが終わった後の観客の様子を見れば、いかにこの会場から底知れぬエネルギーが充満し、放出されていたのかがわかる。みな、汗まみれになった衣服のままフロアや壁にもたれている。まるでマラソンランナーがゴールした時の光景を見ているようだった。
アンジェラ・ゴソウ、凄し。真のスーパースターだ。
この目でその声を聴くまでは、どうしても懐疑的な感覚が隣り合わせになっていて、「本当にこれが女性が出せる声なのか?」という疑問が抜けきらなかった。それに、レコーディングでは出せてもライブでは無理なんじゃないか、とも思っていた。しかし、オープニングの「Enemy Within」が始まると、そこには僕がずっと抱き続けていた疑問を全て払拭させる結果があった。イントロのピアノのSEが流れると会場は既に狂乱状態に。観客の異常なほどのパワーに恐怖心すら感じた。効果的な照明の中ドラムとギターの細かいリフが刻まれ、いよいよアンジェラの登場だ。多くの人が「これが女性か!?」と思ったに違いない同曲最初のフレーズ「Dark thoughs, rise up〜」を、迫力のあるディストーション・ボイスで咆哮する。その野獣のごときパワーに度肝を抜かれた。しかもその声は無理なく素直に自然に出ていて、表情は余裕で溢れ、しかも常に笑顔で観客とのコミュニケーションを楽しんでいる。観ていて本当に気持ちよいのだ。歌うことに精一杯になってしまうタイプのシンガーには、決してできない芸当だろう。ヴォーカリストの資質はやはりライブでのパフォーマンスの善し悪しで決まるものだと思うが、彼女の場合はしっかり発声し、観客を煽り、魅了し、眼をくぎづけにし、それを終始持続させているという点で、もはや名実ともに超一流のヴォーカリスト・フロントマンだと断言できる。ARCH ENEMYは、マイケル・アモットとクリス・アモットの兄弟を中心に、ドラムのダニエル、ベースのシャーリーと、スター揃いのスーパーバンドであるが、アンジェラのパフォーマンスは他のメンバーの存在が霞むほどであった。アンジェラの加入によりARCH ENEMYというバンドが更に輝きを増したという事実は、ライブに訪れたファンにとっても最大の興奮材料になったに違いない。2、3曲プレイした時点で、既に汗がびっしょりである。
彼らの曲はライブ映えする曲ばかりで休むヒマが全くないので、そんな状況の中では、どんな曲がどんな順番でプレイされたのか記憶していられない。非常に曖昧なのだが、プレイされた主な曲は順不同で「Bury Me An Angel」「The Immortal」「Pilgrim」「Silverwing」「Burning Angel」「Heart Of Darkness」「Ravenous」「Dead Bury Their Dead」「Snow Bound」「Shadows And Dust(ラストに「Fields Of Desolation」のGソロを挿入」、それにインストとドラムソロ。たぶんこの他にも何曲かは演ったはず。記憶があいまいでごめんなさい。どの曲もおさえて欲しい曲ばかりだが、とりわけ「Ravenous」はこの日一番の喝采を浴びていた。アンジェラは新作の曲はもちろん、前任者の曲も問題なくこなしていた。他のメンバーについては、ステージが低かったのでプレイ自体はそれほど見えなかったものの、紡いでいるギターのフレーズはまさにアモット兄弟独特の官能的な音だったし、リズム隊も安定感抜群だった。中盤で披露したインストとダニエルのドラムソロも、単にアーティストのマスターベーション的な演奏ではなく、観客を魅了する圧巻の内容だった。
アンジェラが加わって一段とバンドとしての魅力がアップしたことがファンの間で認識されるようになれば、女性ヴォーカリスト加入という賛否の議論は一過性のものとなり、結果的にその話題が「賛」の方向で後押しし、本当の意味でのスーパー・バンドとして君臨しつづけることになるだろう。単に、デスヴォイスで歌える女性が加入したのではなく、「ものすごい」デスヴォイスを持ったスター性抜群のヴォーカリストが加入したのだ。雑誌の人気投票では既にほとんどの部門でトップ、あるいは上位を占めるバンドであるが、その人気に恥じないプレイを披露してくれた喜び、うれしさが心の底から湧き出てくる。それを証明しているのはライブに足を運んだ観客の流した大量の汗とぐったりした姿だ。バンドのパフォーマンスと同じくらい、ファンの興奮した姿が脳裏に焼き付いている。個人的にも汗ってこんなに出るものなの!?と思うぐらい汗をかいて、脱水症状気味で途中で水分補給にいったぐらいだ(たぶんみなそういう状態だったと思う)。心から興奮し、楽しめるエキサイティングなライブだった。もう、最高!