TEN + AQUILA in 渋谷ON AIR EAST
TENの約4年振りのライブはAQUILAとのカップリング。前回来日以降発表された「SPELLBOUND」以後の3枚のアルバムからどのように選曲されるのか、そして、脱退したスーパーギタリスト、ヴィニー・バーンズの抜けた穴を新加入のクリス・フランシスがどう埋め、自分の個性を主張してくるのかが注目となった。また、ライブには定評のあるAQUILAも初体験とあって、開演前から期待が膨らむ。
リハーサルが延びて開場時間が大幅に遅れたが、開演時刻にキッチリスタート。まず登場したのはAQUILA。ライブ受けする新作のタイトルトラック「Say Yeah」で幕を上げる。写真で見るよりずっとかっこよい風貌だったフレッド・ヘンドリックスは、ライブ慣れしたフロントマンとしてのパフォーマンスで観客を煽り、出だしから会場はなかなかの雰囲気に。そのフレッドの声は噂通りの素晴らしい歌唱を披露。どんな高音やシャウトでも決してフェイクすることなく、パワフルで伸びのある歌声を終始聴かせてくれた。楽曲はAQUILAだけでなく、TERRA NOVA時代の3枚のアルバムからバランス良く選曲。いずれもライブに適した楽曲で、特に「Livin' It Up」「Break Away」「Right Now」等のアップテンポの曲から生まれる会場の一体感は素晴らしかった。バックを固めるプレイヤーはあまりその場を動かず、静かな動きでのプレイだったが、表情には笑顔が溢れ、とても楽しんでいる様子。新作からは「Cecelia」「Wide Open」「Young And Restless」「Sometimes」等がプレイされた。1時間弱のセットが終わってからアンコールで再び「Say Yeah」を。既にこのときで体は充分に熱くなっていた。
AQUILAが終わったのが7時過ぎ。最終の新幹線(10:08)で帰らなければならないという厳しい条件をもった僕らは、9時15分には会場を出なければならない。TENが始まるまでは非常にやきもきする時間だった。セッティングにかなり時間がかかってしまったようで、僕らの考えていたギリギリ限界の時間、7時45分ごろにようやくTENが登場。ほっと胸を撫で下ろす。「SPELLBOUND」のオープニングを飾る「March Of The Argonauts」のSEの中メンバーが登場し、当然そのまま「Fear The Force」へ。イントロで強烈なリードギターが炸裂するこの曲でいきなりクリスの出番となった。表情もプレイもやや硬さが見られ、加えて「Fear The Force」自体スピード感はあるものの、意外とこちらが「ノれない」曲だったので、そのフロア全体に流れる微妙な緊張感から内心「このライブ、ヤバイかも...」と思ってしまった。しかし、この曲のように丁寧にメロディをなぞる繊細でクリアなフレーズはどうやらあまり得意でないのか、逆に早弾きやテクニカルなソロは自信たっぷりに、時には元ソロとは違うフレーズを奏でたりとそれなりに存在感をアピールしていた。2曲目の「Wildest Dreams」ではだいぶ落ち着いてプレイしていたようだ。
90分という短い時間の中で、今までの全てのアルバムから選曲があった。新作からは「Scarlet And The Gley」「What About Me」「Black Shadow」の3曲のみで少々物足りないが、それでも他に外せない曲と、まだ披露してないアルバムからの曲を考えると仕方ないのか。個人的に新作では「Strange Land」「Glimmer Of Evil」「Heart Like A Lion」「Outlawed And Notorious」あたりがハイライトだったので、そのいずれもプレイしなかったのは残念。今回はゲイリーがギターを持つ場面が多く、「What About Me」や「We Rule The Night」など数曲で弾いていた。「We Rule The Night」はTENの全楽曲の中でもかなり好きな部類に入るので、選曲に入ったことがとても嬉しかった。
中盤に前回のオープニングで使われた「The Robe」がプレイされたが、この曲こそライブのオープニングにふさわしいと実感。イントロの音が鳴ったときの会場全体が爆発しそうな衝撃は、4年前に味わったものと同じだったが、この瞬間が最も身震いするひとときだった。クリスにとっても、こういったリフ主導の曲で入った方が気分的にはプレッシャーも少なくてよかったかも(?)。その他、ブルージーな「Spellbound」、エモーショナルな「Through The Fire」やライブでの人気チューン「Stay With Me」「Wait For You」など定番がプレイされ、セットのラストは唯一「BABYLON」からのヘヴィ・チューン「Thunder In Heaven」で終了した。もちろん、これでオーディエンスが納得するわけがなく、当然アンコールでの「あの」2曲を待つ。再び登場してプレイされたのは、名曲「After The Love Has Gone」と「The Name Of The Rose」だ。やはりこの曲の持つ魅力と観客の期待は大きく、遅蒔きながらこの日一番の盛り上がりを見せた。「The Name Of The Rose」のソロではクリスもTENの一員らしく見え、堂々としたプレイを見せてくれた。クライマックスにさしかかろうとするころ、僕らは急ぎ足で会場を後にした。
クリスに関しては、技術、表現力、ライブパフォーマンスのいずれをとってもヴィニー・バーンズに遠く及ばず、というのが正直なところ。ライブアルバム「Never Say Goodbye」と聴き比べてもそれは明確だ。特にスロー〜ミドルテンポの曲での官能的であるはずのフレーズの粗と表現力の乏しさを改善しないと、TENの魅力が最大限に生かされない。今のままではバラードの超名曲「The Loneliest Place In The World」で聞き手を感動させることは無理だろうし、プレイできる状態ではない。しかし、加入からわずか数ヶ月という短期間であれだけプレイできたという点で、今後に期待を持ちたい。彼の加入は歓迎したいし、ネガティブなイメージばかりではない。しっかりこのバンドに浸透して、次回来日時はさらにバンドにとけ込んだ姿を見せて欲しい。ゲイリーの歌唱の巧さは言うに及ばず。パワー、表現力とも文句なしで、前回より貫禄が増していた。また、特に目立っていたのがグレッグのパワフルなドラミング。わりと後ろの方でじっくり見ていたので全体がよく見えたが、その中でもグレッグの熱いプレイには終始圧倒されっぱなしだった。
後方で見ていたせいもあるのか、ライブそのものの盛り上がりは前回ほどではなかったのが気になってショウ全体もあら探し的な見方になってしまい、ライブを観ることができた喜びはあれど、心の底から楽しむには至らなかった。その原因は、クリスのプレイを「冷や冷や」しながら観ていた観客が多かったからに他ならないと思われる。ゲイリーとヴィニーという、実力もピカ一で存在自体に圧倒されて興奮した状況とは、かなり異なっている。セットリストの流れも再考の余地があるだろう。だが、このバンドは結成以来最大の過渡期を迎えているところだ。バンドとしての結束力はこれから強まっていくと信じ、クリスがTENのギタリストとして制作する次回作、そしてその自分のプレイでライブをする姿を見てみたい。